少し前の話になりますが、北陸農政局から「『今後の農政を考えるにあたって、現地の人の肌感覚を知るためにヒアリングをしたい』という事で本省の方が来ます」というご連絡を頂き、2018年2月23日に農林水産省の方々が私の住む新潟県十日町市の飛渡公民館にいらっしゃいました。
飛渡地区にずっと住んでいる地域の方々と十日町市の新規就農者の方々をはじめとした移住者に集まってもらい、飛渡公民館で意見交換をしました。
そこで、色々意見交換をする中で、中山間地を今後も荒らさないために必要な事が私の頭の中で整理されたのでそれについて書いてみたいと思います。
まず、中山間地を荒らさないでおくべきか否かという意見があると思いますが、私の立場としては、中山間地は荒らさない方が良いという立場です。
だから自ら中山間地の池谷集落に住んでいるわけですが。
一方でコンパクトシティーという考え方もあり、人が住むのは中心市街地に集中した方が効率的であるという意見もあります。
ただ、人が住むところを集中させるというのは、平時の時は確かに効率は良いと思いますが、災害が起こった時には被害が大きくなりやすいです。
良く色んな人が言っているように東京に地震が直撃したらとんでもない事になるという事を想像してみると実感できるのではないでしょうか?
また、最近は中山間地に住む人が減った事で、熊が街中に出たりといったニュースも聞かれるようになりました。
大雨が降ると、棚田が自然のダムの代わりをして、大水が一気に平地に押し寄せるのを防ぐという効果があります。
近年は大雨が降った際に、床下浸水の被害がひどいというニュースも見られますが、これは棚田の耕作放棄が進んだことも無関係ではないと私は考えています。
こうして見ると、ある意味、中山間地は市街地の防波堤という考え方も出来ます。
そして、農林水産省は農業・農村の多面的機能をイラスト入りでわかりやすくまとめてホームページで公開しています。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/
そして、農業の多面的機能の貨幣価値も試算しており、資料としてまとめています。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/pdf/kaheihyouka.pdf
また、中山間地には農地だけではなく、森林もあります。
林野庁は森林の有する機能の定量的評価をまとめており、これも経済的な評価額を試算してまとめています。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tamenteki/con_3.html
私は世の中お金だけではないと個人的には考えていますが、世の中の多くの人が納得するためにはこういった金額的な評価も必要で、この金額も含めて考えると、人が住む場所は集中するよりも分散した方が実は効率的だと言えるかもしれません。
なので、農業を農産物を作って販売する場所としてだけではなく、多面的機能を含めて考える事が重要であると私は考えています。
以前農林水産省の1階に日本・EUにおける農業所得に占める政府からの直接支払額の割合というポスターが張られていました。
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h21_h/summary/p1_tp.html
これを見ると、EUでは農家の所得の実に78%が税金で賄われているのに対し、日本は23%にすぎません。
我々がお医者さんに行くと、3割負担なので、患者が300円支払ったらお医者さんには700円の税金が医療費から支払われ、お医者さんの手元には1000円が入るという事になっていますが、医療も食料も同じく人の命を守るものであるという事を考えると、EUのような考え方も必要ではないかと思います。
実際に農業をして感じる事は、時給換算したら普通の仕事に比べて安すぎるという事です。
以前米作りで得られた利益を労働時間で割ったら時給531円でした。
色々作業を効率化して、改善できる部分はあると思いますが、それでも時給1000円を超えたらいい方だと思います。
これだと都会のコンビニバイトの方が高いです。
それで家族を養っていくというのはとても大変です。
都会から農作業体験に来た人は大体こう言います。
「こんなに大変な事はたまに体験としてだからいいけど毎日やるなんてすごい。」
農家は普通のサラリーマンならまだ寝ている時間から起きて大変な肉体労働をしてます。
日本の農業は保護され過ぎているという人は実際に自分で農作業をやってみてどう思うのかを聞いてみたいと思います。
今回いらっしゃった農水省の方によると、EUで農業に対して多額の財政が投じられる事に対して国民の理解が得られていたり、フェアトレードのような考え方で少し高くても自分たちの国の農産物を買おうという考えが強いのは、国民が農業の価値を知っているからだそうです。
逆に日本でそうなっていない理由は、ほとんどの国民が農業の実態を知らないからだという事がわかりました。
自分も十日町市に移り住むまで全く農業の実態を知りませんでした。
という事は、義務教育でしっかりと農業の多面的機能について子供のころから教え、修学旅行で実際の農山村にふれさせるというような事をする事はとても重要なのではないかと思います。
十日町市では越後田舎体験という形で中学生などの修学旅行の受入を行っています。
田舎体験で来た中学生を受け入れている家庭は飛渡地区にもありますが、実際に来た子供達からは非常に評判も良く、その後年賀状が届いたりもしているそうです。
中山間地を荒らさないための長期的な取り組みとして、これからの世代にしっかりと農業の多面的機能について知識として学んでもらい、また、実際に現地に訪れる機会をもってもらって体感してもらうという事はとても重要になると思います。
そして、このこと自体はそんなに予算のかかるものではないので、すぐに実行出来る事だと思います。
もう1つ話をする中で出てきた事があります。
それは、都会のCSRに熱心な企業と農山村の受入を結び付ける仕組みを作るという事です。
農村の多面的機能に「癒しや安らぎをもたらす機能」と「体験学習と教育の機能」というのがあります。
これを、都会で働いていてメンタルをやられる前の予防や、メンタルをやられた人の療養、前向きな観点では野外での共同作業を通じてチームビルディングに結びつけて企業の生産性を高めると言うように、企業にとってメリットが得られる形で農村と結びつけるという事を国を挙げてやってもらうような体制づくりが出来ると、都会の企業にとっても農村にとってもWin-Winになると思います。
このような事は個別の取組みとしては全国各地で先進的な地域では行われてきましたが、社会貢献的な事をしたいけどそういうつながりが無かったりそもそも何をしたらいいのかわからないという人も多いですので、それをうまく結びつける仕組みを作る事は社会的な意義も大いにあると思います。
丁度、最近は持続可能な開発目標(SDGs)という言葉が盛んに使われるようになっています。
私は2017年12月に開催されたまちてんに登壇させて頂いたのですが、そのまちてんの実行委員長で株式会社伊藤園の常務執行役員 CSR推進部長の笹谷秀光氏もSDGsをキーワードとして色んな所で発信しておられます。
いまこそ、このような企業と農村を結びつける取組みを一般化していくいいタイミングなのではないかと思います。
これも予算はほぼ不要で回せると思います。
実際に農村に来た企業が交通費や現地での食費・宿泊費・体験料を負担すれば普通の経済活動として回すことが出来ます。
これは、内部留保がたまっていてお金のある企業の有効なお金の使い方にもなると思います。
これを実行するために必要な事は受入が出来る地域とCSRをしたい企業を取りまとめて整理する事と、実際に介在してマッチングする機関が必要になるのですが、都会の企業側を取りまとめるのを都会のNPO等に担ってもらい、農村を取りまとめるのを農村のNPOが担う事で少しずつ実績を積みながら全国に広げていく事は十分出来ると思います。
まとめると、次の2つについては私が是非実現に移してほしいと思いました。
①農業の多面的機能を義務教育で学んでもらう仕組みを作る
・学校の社会の科目で教える
・実際に現地にふれる機会を修学旅行などで作る
②企業のCSRと農村を結び付ける仕組みを作る
上記の2点については是非今回の現地ヒアリングでの意見という事でくみ上げて頂き、是非実行される事を願っています。
そして、自分たちもすぐにできる事として、上記に書いたことを小規模に実行できるような取り組みを始めました。
それが、棚田オーナー制度です。詳細は下記のリンク先に記載しておりますので、ご興味のある方は是非ご覧いただければと思います。
https://iketani.org/event/minnanotanada/